ー序ー

 私は幼い時分から父としっくりこない所があった。正確に言うと、父が時折浮かべる神妙な面持ちに、私に対する愛の欠如をつぶさに感じ取っていた。

 故郷は、県下の中心部からはかなり遠い、しがない田舎町である。生家は取るに足らない平凡なもので、近くの高等学校で社会の教鞭をとる父と、それを支える専業主婦の母との間の次男坊だった。姉が一人と、弟が一人。どちらも特別秀でた人物でもなく、噂の落第生、不良という訳でもなかった。

 父母の夫婦仲はお世辞にも良いとは言えなかったが、母はよく父の面倒を見ていたように思う。父は仕事の教職以外は取り立てて才能の無い男で口数も少なく古風な頑固親父を絵に描いたような男で、時折母に暴力をふるったが、母は不平不満をこぼすこともなく、尽くし世話していた。姉は不器量な女で性格も暗く学校には友人も少ないようであり、何かにつけ比較される私を目の敵にしていたため、私はなかなか馴染めず、深い話をしたことも殆どなかった。対照的に弟は私にべったりと懐いていて、どこに行くにも後ろをべったりとついてきたために、両親だけでなく、決して多くない私の友人からも甘やかされて、どこか頼りない男に育ってしまった。

 私はといえば、分不相応に勉学だけはできるくせに、幼いころは体が弱く病気がちで、どことなく儚げな、不幸せそうな少年であった。