受験

 高等学校の入学試験はさほど難しいものではなかった。筆記試験は国語と数学のみで、全ての問題を不自由なく解くことが出来た。問題は、口頭試験というか面接だった。学校長とおぼしき白髪の小柄な老人と、自ら1年の学級主任と名乗ったやせっぽちな男、そして、若い、おそらく入学することになれば担任になるであろう体育会系の男性教師と相対し、大人と触れ合う機会の少なかった私は、きまりが悪く居心地が悪く感じていた。

 学級主任は私の中等学校の成績簿にざっと目を通し、 「中学の成績が非常にいいですね。先生の指導が良かったんだろうな。素晴らしい。だが、体育は見学しているね。どこか体でも悪いのかな。」と、しだれ柳のような痩せ細りゆがんだ体を少し傾けながら私に問いかけた。

 「ええ少し。」

 私は、筋の悪い発声練習のように一文字ずつ区切りそれだけ答えた。校長は相変わらず無表情で、若い担任はきらきらしたまぶしい顔を曇らせ、自分には想像もできない苦境に立たされてるみじめな子供に対する同情の色を大げさに示した。私はその嘘くさい仮面を見て、何てデリカシーの無い男だろうと感じた。

 学級主任は、私の要領を得ない答えが気に入らなかったのか、あいづちとも冷笑ともつかない、ふん、という鼻息を鳴らし、次の質問に移った。それからの会話はいまいちはっきりとは覚えていない。ただ、私の回答に甚だ大層な反応を見せる若い教師が不愉快で、ここに入学すれば3年間この男に付き合わされるのかとぼんやり暗い妄想にふけりながら適当に学級主任の質問に答えていた。

 1週間後、我が家に「合格通知」と赤字で仰々しく印字された封筒が届いた。