車窓

 半年後、私は、この日のために仕立てた淡緑色のスーツに黒いバラのコサージュを付け、普段より厚化粧をした母と一緒に、電車に揺られながら高校に向かっていた。入学式だった。

 母親は片田舎から唯一市内の進学校に合格した私が大層誇らしかったらしく、さして興味もない隣人たちにこの「目出度い」出来事を触れ回り、合格通知が届いた一週間後には、村民でこのことを知らない者はいないほどであった。

 私はといえば、どうしても面接で強く感じた担任の嘘くささが頭から離れず、また、知人の一人もいない市内にこれから単身通わなければならないのかという憂鬱も手伝い、愉快な心持とは言えなかった。むしろ、何故母親や教師達から受験を勧められた時にはっきり断らなかったのだろうと、自身の流されやすさを恨めしくさえ思っていた。村の知り合いの子供達からひやかされる度にどこか気まずい、後ろめたい気持ちになっていた。

 高校の入学式へ向かう道すがら、母は終始上機嫌で、学校では一杯友達を作りなさいとか、授業ではしっかりと発言なさいとか、私には土台無理そうなことを晴れやかな口調で言いつけていた。私はそうした母の無理難題に適当な相槌を打ちながら、車窓から広がる風景をぼうーっと眺めていた。山がちで緑の多かった景色は、徐々に色彩が貧しくなり、白やベージュといった地味な色合いの住宅街へと姿を変え、最後には無機質な単一の建造物群に成り果てた。