自分

 たまにそうしている間にも「自分」というものがわからなくなっていた。人のことはやたらよく見据え、人物評は幼いころから得意であったにも関わらず。

  私にとって「人」は「ヒト」であって記号であった。

  うわべだけの付き合いは人一倍上手であったが、どうしても胸襟を開くという感覚を覚えることができなかった。自分が今何者でどこにいて何をしているのか、時折どうしようもなく不安な気持ちを感じてはふと我にかえって、「はは」と乾いた笑いを発していた。

  そんな私を見て、人は不気味がったものだ。私にとってはそのような「ヒト」が一番不気味で不思議で不可解な存在であった。