Entries from 2016-03-17 to 1 day

ー序ー 私は幼い時分から父としっくりこない所があった。正確に言うと、父が時折浮かべる神妙な面持ちに、私に対する愛の欠如をつぶさに感じ取っていた。 故郷は、県下の中心部からはかなり遠い、しがない田舎町である。生家は取るに足らない平凡なもので、…

出発の刻

煙草の煙がか細いおぼろげな姿を示しながら漂って雪に同化していった。私の前に揺らめいているこの蜃気楼のようなちぎれた雲が、呼気なのか、煙なのか、見分けがつかなくなった。ーこれか。ここに至るまで私はかなり時間を喰ってしまったー 市街から路面電車…